益城町公民館講座 開講式講話



平成16年4月 開講式

                学習成果を地域づくりに

1 はじめに
 4月から教育委員会生涯学習課社会教育指導員としてお世話になっております。よろしくお願いします。
 益城町の生涯学習熱の高いことに驚いています。8日の公民館講座の受付開始は8時30分からでした。ところが、早い方は6時30分頃から並んでおられたとのことです。2時間も前から受付に並ぶ、これはよその町村ではあまり見られない光景ではないかと思います。皆さん学習意欲が高く、遅く行けば定員一杯になって受講できないのではなかろうかとの心配から早くから並ばれたのです。
 話は少し違いますが、私は数年前に宝塚歌劇を観劇しました。私が座った位置は料金の安い後ろの方でした。宝塚関係者の方の話によると、料金が1万円以上する前の席の方から埋まっていくとのことです。関心のあるものは「前の方で見たい」という意識の表れです。これと同じことで、学習したいという強い意識が2時間も前に並ぼうという行動を起こさせたのです。
 また、あるお母さんの話です。「子どもが韓国の空手、テコンドーを習っています。言葉も習いたいと言います。子どもでも講座を受講していいでしょうか。」と申し込まれました。
 今朝は、あるお母さんから「息子は今日の開講式には学校があっているので出ることができません。教室が始まってからは毎日出ると言っています。よろしくお願いします。」と電話がありました。その子どもさんは小学1年生ということです。
 さらに、6年生の子どもも受講しています。
 本当に生涯学習熱の高さに驚きました。このような皆さんの生涯学習意欲に応える充実した公民館講座をはじめと生涯学習の充実をはかるために、町も16年度から役場の機構改革の一環として「社会教育課」から「生涯学習課」へと課名変更しました。
 皆様に魅力ある講座の開設を目指していきます。
 
2 生涯学習とは
 生涯学習が進められたのは15・6年前からでした。私も県教育委員会社会教育課でその仕事をしていました。そのころ、生涯学習を進めるいろいろな催しがありましたがなかなか皆さんに生涯学習を受け入れてもらえませんでした。当時、生涯学習についての3つの理解ちがありました。それは
  @この年になってもまーだ勉強せて言いなはっとですか、いつまで勉強すればよかつですか
  A忙しうして、生涯学習どこっではなか
  B生涯学習って社会教育のこつだろう。学校には関係なか
というものでした。
 宮原町の「生涯学習まちづくり大会」に出席したとき、ある女性の方が「私はやっと子育ても終わった。これから私の好きなことをしようと思っているのに公民館の先生たちは『まーだ勉強せて言いなはっとですか』」と話されました。さらに続けて、「私は今自動車免許証を取りに自動車学校に行っています。昨日、初めて路上運転をしました。歩いているときは何も気付かなかったけど、道路には私たちが安心して歩いたり車を運転したりできるようなしくみがたくさんあることを知りました。道路標識がある、信号があるなどで安心して道路を利用することができるのですね。このことを昨日初めて知りました」と話されました。私は「そのようにこれまで知らなかったことを自分の努力で知ることができた、わかるようになったも生涯学習の一つです。なにも机に向かって本とノートで学習することばかりが学習ではありません。趣味や生きがいを伸ばすこと、地域のことに力を注ぐこと、このようなことに取り組み輝く人生を送ることも生涯学習の一つです。」と答えました。
 2番目の「忙しうして、生涯学習どこっではなか」についてです。毎日の仕事に忙しい思いをしている人が「生涯学習って暇人のするこったい。私は忙しうしてそるどこっじゃなか」という人がたくさんいました。そうでしょうか。昔は「10年一昔」と言う言葉がありましたが、今では「1年一昔」あるいは「1月一昔」と言うのかも知れません。
 皆さん。炊飯器がこわれ、新しいものに買い換えると昨日までのやり方では炊飯器を使うことができないでしょう。説明書をよく読んで学習しなければなりません。同じように仕事をする上でも、極端に言えば昨日までと同じ方法では生産を高めることはできなくなりました。
 私はパソコンができませんでした。しかし、今学校ではパソコンを使えなければどうにも仕事になりません。私は必死でパソコン操作を習いました。JAでも農業生産を高める技術講習会などを実施しています。
 心豊かな生き方を求めて、趣味や教養、健康づくりに関する学習をすることばかりでなく、農業生産を高めるための研修、仕事に使うパソコン技術研修など職業能力を高める学習も生涯学習の一つです。
 もう一つの理解違いは学校の先生方に多かった理解違いです。「生涯学習って社会教育のこつだろう。学校教育には関係なかもん」でした。今現在、こんなこと言う先生はいません。学校では生涯学習の基礎づくりの考え方で学習指導を進めています。3年前に学校で勉強を教える基になる「学習指導要領」というのが改訂されました。そのとき、議論が起きたのが学力低下問題です。指導内容を3割減らしたのですから学力低下を心配するのも無理ならぬことだったことです。しかし、よく考えてみると、知識を豊富に覚えたとしても今のように変化の激しい時代には数年前の知識はすぐに役立たなくなります。それより、これまで学習したことを基に自分で考え問題を解決する力が今求められているのです。その一つが、小学校5年生で学習していた台形の面積を求める公式を覚えるのではなく、台形を三角形や長方形に分け、三角形などの面積の公式に当てはめて面積を求める算数的考え方を高めることです。今学校ではこのように生涯学習の考えを大事にした学習指導を進めています。これが自分で課題を見つけ、自分で考え、解決する生涯学習の基礎づくりにつながります。

(2)生涯学習
 生涯学習とはフランスのポール・ラングランという人が提唱したものです。ヨーロッパでは、生涯学習ではなく、継続教育といっているようです。つまり、職業能力を高めるために学校を出た後も継続して学び続けるという意味です。ヨーロッパでは日本のように大学進学者は多くありません。日本で言う義務教育を卒業してすぐに就職する人が多いということです。そこで、常に職業能力を高める学習を学校を卒業後も継続して続けていく必要があります。ですから、日本のように心豊かに生きるための学習はあまり視野に入れていなかったようですが、豊かに生きるための学習は大切なことだと公民館講座などの方式を、今ヨーロッパでは逆輸入しているということです。
 日本では、自分自身の充実、啓発、生活の向上のために自発的に必要に応じて自分にあった学習方法を自分で選んで生涯を通じて行うものを生涯学習と呼んでいます。これは、めまぐるしく変わる社会で心豊かに生きるための生涯にわたっての学習です。
 益城町公民館でも知識・技術の習得をを求めるものから趣味や生きがいに関わるものまで、内容も専門的なものから日常的なことまで幅広いものが用意されています。
 
3 生涯学習社会の実現
 益城町を「生涯学習のまち」とするために、皆様の学習意欲をさらに高め、充実したものとするとともに、活力ある益城町づくりのために学習の成果を社会に還元していただきたいと思っています。つまり、学習の成果を「まちづくりの活動」に生かしていただきたいと思います。
 地域づくり、自治公民館などでの学習機会、子どもや若者たちとの交流、健康で輝きのある生活のために、指導者として、啓発者としてボランティア活動を進めてみませんか。
 ボランティア活動は我が町を愛する心がないとできません。
 今、益城町の全小学校ではPTAを主体とした絵本の読み聞かせをしています。私よりも体の大きい6年生の子どもたちも絵本の読み聞かせを一生懸命聞いています。その中心になっている人の中に公民館講座「語りと絵本」で学習していらっしゃる方もたくさんいます。また、本講座で太極拳を学んだ方が中心となって飯野分館では太極拳教室を開いていらっしゃいます。今年から町では全公民館分館に公民館長を位置づけました。公民館分館の活動がますます充実することを期待しています。その中心に皆様がなられることを期待しています。
 矢部町で「通潤橋案内ボランティア」の方が活躍していることを知っている方も多いことでしょう。矢部町の案内ボランティアの始まりは、町の公民館講座「高齢者大学」で学んだ人が「町の税金で学ばせてもらったお返しに、何か町に役立つことはなかろうか」と考えていたそうです。その頃、「町外から来る人や通潤橋の学習に来る小学校4年生担任の先生などから、通潤橋の説明がほしいという要望が多く、町としては見学者へ説明してくれる人はいないだろうか」と捜していたそうです。そこで、教育委員会と講座生の思いが一致して始まったことです。65歳も70歳にもなった方が通潤橋について説明をしておられます。説明を聞いた人がいろいろと質問します。その質問に答えるためにさらに学習を続けられます。そして、それが自己の充実につながります。これを生涯学習ボランティアと呼んでいます。
 皆さんの学習成果をまちづくりに生かすとともにさらに学習を深めてほしいと思います。
 ボランティア活動をする上で、たくさんある情報を常にキャッチすることが必要になります。
 皆さんは「桃太郎の鬼退治」の昔話を知っていらっしゃるでしょう。私は皆さんにあの桃太郎のサル、キジ、イヌの3匹の力を常に持ってほしいと思うのです。
 どんな力かと言いますと、キジが空高くまい上がり、上空から鬼ヶ島の情報をつぶさにキャッチします。その情報をサルが知恵をはたらかせて分析します。猿知恵というでしょう。サルが分析・作戦を練ったものをもとにイヌが行動にうつします。つまり、鬼と戦うのですね。この3つの力が合わさって鬼退治ができたのです。
 私たちは、情報収集能力、分析能力、それと実践力を常に持ちたいものです。それが学習をさらに深め、地域づくりへとつながるものと思います。
 島津日新斎は「いろは歌四十七首」の中で
   いにしへの 道を聞きても 唱へても わが行ひにせずばかひなし
 と言っています。公民館講座で学んだものを今日からの生活に生かしましょう。
 1年間、健康に気をつけ講座を受講していきましょう。


平成18年4月 開講式

                        公民館講座で脳を若返らせましょう

1 はじめに
 もう、葉桜の季節となりました。今年の桜もとてもきれいでしたね。
 私たちは、桜が咲いたと喜び、桜が散ってしまったと言ってはわびしさを覚えます。この心境は今に始まったことではないですね。平安時代に、在原業平が詠んだ和歌が古今和歌集にあります。
 「世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」という和歌です。皆さんご存じの和歌ですね。梅が咲いた、桃の花が咲いた、桜が咲いた、花が散った、このような自然の営みに心を弾ませることは、日本人の心でしょう。 
 自然の織りなす光景に心を和ませ、公民館講座で学び、脳を活性化させ、若返らせ心豊かに生きていきましょう。

2 人は老いる
 平成16年度のいきがい教室で、「老いと生涯学習」の話を聞きました。
 人は加齢とともに脳の活動も鈍くなるということです。人は、40歳代から脳が老化すると言われました。その老化が「ぼけ」です。
 この「ぼけ」には5つの特徴があるそうです。それは、もの忘れが多くなる、物覚えが悪くなる、動作が遅くなる、がんこになる、そして「脳の視野狭窄」と表現されましたが、新しい友だちをつくりにくくなることだそうです。
 私は、今年で63歳です。この5つの特徴がすべて当てはまります。人の名前が直ぐに出てこないのです。先日、ある人と話をしている時のことです。話題が共通の知人の話になりました。ところが、二人とも、その知人の特徴は良く覚えていて話が出来るのに、その人の名前が出てこないのです。「確か、た、何とか言いよったな」とか、「菊池の人で体育畑だったもんな」などです。そしてしまいには「そん人がどうした、こうだった」などと話をしました。終いには「ここまで名前が出かかっとるとに、出てこんてなさけなかなぁ」と互いになぐさめ合っているのです。
 最近は、こんなことが良くあります。家での妻との会話です。
 「おい、あら、どけあるや」「あ、あるな。あら、あすこにあるたい」こんな調子です。おもしろいものでこんな会話でも意外と心は通じ合うものです。
 また、だんだん気が短くなり、頑固になってきました。皆さんも家族や友達からそう言われたことはありませんか?
 このような「ぼけの進行にブレーキをかけるのが生涯学習ですよ。公民館講座ですよ」という話を聞きました。
 最近は、本屋さんに行くと脳を若返らせる本、脳を活性化させる本などのタイトルのついた本がいっぱいですね。

3 今、健康ブーム
 今、健康ブームです。笑い話ですが、「健康のためなら命は要らぬ」と言う人もいるやに聞いたことがあります。ジョギングやウォーキングをする人が大変多くなりました。私も我流ですが、ウォーキングを楽しんでいます。人と会話が出来る程度の運動量での有酸素運動が体に良いそうです。体脂肪を燃やし、健康な体作りに適しているそうです。
 毎年5月、テクノパークで行われる益城町ジョギングフェスタには、県の内外から3000人近くの人が参加します。参加者の走りを見ていると、マイペースでジョギングやウォーキングを楽しんでいます。このように、無理をせずに自分の体にあった方法で継続して行うことが体を若返らせるコツですね。
 脳の働きは食生活とも大いに関係があるそうです。
 皆さん、DHA ドコサヘキサエン酸という言葉を聞いたことがあるでしょう。このDHAは、脳や神経組織の発育、機能維持になくてはならない成分で、人間のからだでは脳細胞に多く存在しているそうです。脳細胞内のDHAの量が減ると、脳の機能が低下して情報伝達がスムーズにいかなくなり、乳幼児の脳や神経の発達が悪くなったり、老化による学習能力や視力の低下を招いたりすることがわかっているそうです。
 そこで、食事でドコサヘキサエン酸を補い、情報の送受信アンテナとも言える神経細胞先端のシナプスの膜にドコサヘキサエン酸を取り込むことによって脳を活性化させる健脳効果は、すでに実証されているそうです。
 このドコサヘキサエン酸は、あじやさんま、いわし、鯖などの青魚に多く含まれているそうです。幼児などのお孫さんに多く食べさせるばかりでなく私たちもこれら青魚を多く食べましょう。
 今はタケノコが旬です。私が七滝小学校にいるこの時期、子どもがタケノコを給食室に持ってきます。そして「給食の先生、今日はタケノコご飯を作ってください」と言っていました。今ではできないことですが、当時は調理員がタケノコご飯を作って給食に出していました。
 そのタケノコにチロシンというものが多く含まれているそうです。チロシンとは、脳を活性化させる神経物質をつくり出すタンパク質に含まれるアミノ酸の一種で神経伝達物質の原料となるものだそうです。神経細胞や、神経細胞間の情報伝達物質の材料となる重要な物質だそうです。
 今が旬のタケノコを大いに食べようではありませんか。
 また、カルシウムが不足すると脳の機能低下を招くそうですよ。
 食生活にも気を配りましょう。詳しいことは、男の料理教室で指導されます栄養士の先生にお尋ねください。

4 公民館講座で脳と体を若返らせる
 東北大学の川嶋教授は、簡単な計算を早くすること、読書をすること、できれば声に出して読むこと、そして、他人とのコミュニケーションをとるによって前頭前野を若返らせることができると言っています。
 お手元に「蜘蛛の糸」の一節をコピーしたものをお配りしています。蜘蛛の糸は皆さんご存じの芥川龍之介の作品です。次のような物語です。
 極楽の蓮池のふちを歩いておられたお釈迦様が、蓮の葉の間から下をご覧になると、地獄の底の様子がよく分かります。そこにカンダタという一人の罪人がいました。カンダタは人を殺したり、放火をしたりの大罪人でしたが、一つだけいいことをしたことがありました。それは、路を這っていく一匹の蜘蛛を見て、「これも小さいながら命のあるもの。その命をむやみにとるのはかわいそうだ」と助けてやったことです。お釈迦様はこのことを思い出され、カンダタを助けてやろうと考えられました。極楽の蜘蛛が一匹美しい銀色の糸をかけているのを手にとられ、蓮の葉の間から地獄の底へそれをおろされました。その蜘蛛の糸を見つけたカンダタは、この糸をのぼっていくと地獄からぬけ出せるに違いないと思い、糸を手にすると一生懸命のぼりました。疲れて一休みし、下を見ると数限りない罪人が自分の後からのぼってきます。自分一人でさえもその重みで糸が切れるかもしれないのに、こんなにたくさんの罪人がのぼってはすぐに糸は切れてしまう。そう思ったカンダタは「こら、罪人ども、この蜘蛛の糸はおれのものだぞ。下りろ。下りろ。」と喚きました。その瞬間、カンダタがぶら下がっているところから糸が切れ、カンダタをはじめ罪人達は地獄の底へ真っ逆さまに落ちてしまいました。あとには、ただ極楽の蜘蛛の糸が、キラキラと細く光りながら月も星もない空の中途に短く垂れているばかりです。お釈迦様はこの一部始終をご覧になって悲しそうな顔をされました。
 と言うお話ですね。昔読まれた方も多いことでしょう。
 皆さん、声を出して読んでみましょうか。
       蜘蛛の糸                  芥川龍之介
 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。
 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
 するとその地獄の底に、カンダタと云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。この陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。
 御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。

 はい、ありがとうございました。黙読と違って声に出して読むと、意外と読めない漢字に気づいたり、意味が分からなかったりするでしょう。そんなとき、直ぐに漢和辞典や国語事典を引っ張り出して読みや意味を確かめる、これも大事な学習です。
 お釈迦様は、カンダタがいる地獄には、銀色の1本の蜘蛛の糸しかおろされなかったのですが、お釈迦様は私たちには無数の糸を垂らしてくださっているに違いありません。無数におろされた糸を発見し、自分の力でそれを選択し、のぼりましょう。
 今年の公民館講座では、ペン習字をはじめ18の主催講座があります。また、自主講座もたくさんあります。自分にあった蜘蛛の糸(学習内容)を探し、独り占めしないでみんなでのぼっていきましょう

5 助け合い、励まし合い、志高く
 18世紀のフランスの哲学者ジャン・ジャック・ルソーは著書「エミール」のなかで、「生きるということは、ただ息をすることではなくて活動することである。最も長生きしたというのは、最も長い年月を生き延びた人というのではなくて、最も強く生命を感じ取った人のことである。世の中には100年も長生きをして葬られた人もいるが、それだけでは生まれてすぐ死んだ人と同じではないか」と述べています。
 人間にとって一番大切なことは、たとえ寿命は短くても、あの人は立派に、充実感や生きがいを持って生きた人だといわれるような人生を送ることにあったと思われます。人生は長さだけではなく、幅や深さ、そして質もあるのです。そこで重要なことは「生涯青春」という気力を持って生き生きと生き、美しく生きるために、何か情熱を燃やし続けること、心を燃やし生きることです。心が燃えると言うことは何歳になってもすばらしいことです。
 生活の中に緊張と燃えるものを持っている人は、常に生き生きとしていて美しい人生を送っていらっしゃいます。若さの秘訣は自分に適当な負荷をかけ、精神的な張りを持つことと思います。
 また、熊本には「助け合い、励まし合い、志高く」という熊本の心があります。この言葉は、老いも若きも、男も女も、家庭でも、学校でも、地域でも、全ての人が持ってほしい言葉です。
 今とかく、地域の連帯感が薄れていると言われます。公民館講座で学ぶ人たちが、同じ地域に住む人たちが、「助け合い、励まし合う」生き方をすれば、地域の連帯感も生まれます。

6 受講生の皆さんに望むこと
 公民館講座や個人的な学習で学んだことをもとに、地域で助け合い、励まし合うことが共に生き、共に学び、共に育つことだと思います。そこから生きがいが生まれます。「生きがいは、自分という存在がだれかのためになり、だれかの役に立ち、だれかに必要とされ、だれかから尊敬され、だれかから愛され、だれかを愛するという出会いや人間関係の中に見いだすことができる」というまさに自己実現です。公民館講座で学んだことを、地域作りに活かしましょう。
 医学的な取り組みでは、高齢者に学校に来てもらい、学校で読み書き計算に取り組んでもらう試みが行われています。この取り組みで、高齢者が子どもと触れ合うことで高齢者の脳の働きがよくなることが分かっています。
 私たちの脳を鍛えることは地域づくりに役立つと思っています。昔は、高齢者が地域で子どもが悪いことをすれば注意する社会ができていたでしょう。私たちが子どもに分かるように指導すれば、子どもは言うことをきくしルールも身につけます。
 学校では、総合的な学習の時間で地域学習などに取り組んでいます。地域の人材の一人として学校教育のお手伝いをしようではありませんか。


平成19年4月  開講式

                  公民館講座で学んだことを生かして社会貢献しましょう

1 はじめに
 昨年の公民館文学講座で小泉八雲の話を聞きました。皆さんご存じのように八雲は島根県から熊本に来ました。熊本に来た八雲は、「熊本とはおかしなところだ。夏や冬が一度に来る」と言ったそうです。これは、急に暑くなり、寒くなることを言い表した言葉だそうです。
 今年の気候はまさにこの言葉のようです。冬からいきなり夏日となりました。また、寒さが戻りました。本日も冷たい雨が降り続いています。
 そこで、桜の開花予報では一旦、例年より1週間から10日早くなるだろうと発表し、それがいくらか遅くなると言うのでお詫びの会見までありました。桜予報の間違いでわざわざお詫び会見するとは、日本という国はなんと平和な国だろうと思っていました。どころが、昨夜は日本中に衝撃が走りました。選挙遊説から帰った伊藤長崎市長が選挙事務所前で、大勢の市民の前で銃弾に倒れたのです。今朝未明、失血多量で亡くなられたとテレビで報道していました。心からご冥福をお祈りします。
 自分の考えを受け入れないから、自分の考えと違うからということで人の命を奪うなど許されることではありません。絶対あってはならないことです。強い憤りを覚えます。
 殺伐とした心ではなく、他を思いやる豊かな心を持ちたいと思います。
 本日は、充実した生活、豊かな心を求めて学習に取り組む益城町公民館講座の開講式です。開講式にあたって、公民館講座について皆さんといっしょに考えてみたいと思います。

2 五木寛之さんのエッセイから
 皆さんもご存じの作家、五木寛之さんのエッセイを読みました。
 その中に、「年をとることのおもしろさ」がありました。
 「人は長生きだけすればいいか。そんなことはない。できるだけ元気で長生きが目標であろう。病に悩まされながら、辛い日々を送るというのは、必ずしも幸せな生き方ではあるまい。しかし、人間は100パーセント健康ではあり得ない。
 健康な生活などというのは、幻想にすぎない。人は1日ずつ老いるのであって、突然、ある時老化が発病するわけではない。もし、健康という言葉があるとするなら、できるだけ体調を整え、それを維持する生活ということにつきるのではあるまいか。
 体の調子がよくないというのは、本当に苦しいこと。体調は心の状態にも大きな影響を与える。物の考え方、感じ方、それらのすべてに体調の変化は確実に影を落とす。体が辛いということは、心が辛いということ。
 人は、常に変化し、日、1日と老いていく体と心を、できる限り安定した状態に保つために苦心する。これが『養生』だ」。
 と五木寛之さんは言っています。
 心と体を安定した状態に保つ、五木さんの言葉で言えば「苦心」の一つが公民館講座で学ぶことだと思います。

3 脳機能を低下させないために
 昨年の開講式では、東北大学の川島先生が前頭前野のはたらきを活性化させるために提唱しておられること、文章を声に出して読む、簡単な計算をする、新しい友だちをたくさん作る、の話しをしました。そして、買い物などの金額をレジ任せにしないで、およその数で計算をしておきましょう。新聞のニュース記事などを声を出して読みましょう。公民館講座でたくさんのお友だちを作りましょうとお話ししました。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の第1節を声に出して読みましたね。
 本日は、レジュメにも示していますように、和歌山県立医科大学院長、板倉徹博士提唱の「ラジオのススメ」についてお話しします。
 先生は、「脳の機能を低下させないために、いろいろな脳トレがありますが、その一つとして、ラジオを聞くことを勧めます。ラジオは創造力を喚起し、脳を活性化させるのに役立ちます」と言っておられます。
 ラジオが脳を鍛え、脳のはたらきをよくするのは、音という限られた情報からイメージを膨らませる力を自然と養うことができると説いておられます。
 ラジオは音声による情報しか脳に届かないので、脳は無意識のうちに足りない情報を補おうとして活発にはたらき始めるのだそうです。言葉を聞いて視覚的な想像をするために側頭連合野というところがはたらき、熱いとか冷たいとかの感覚を表す言葉には頭頂連合野というところが反応するそうです。匂いなどに関する想像は前頭連合野が反応するのだそうです。
 ラジオは音声情報だけですから、私たちは無意識のうちに想像を働かせやすく、それが脳を活性化させることになっていると言っておられます。脳の活性化でも特に重要なのは、前頭前野というところです。
 前頭前野は人間にとって最も大切である意欲(学習意欲もその一つです)や意思を司るところで、考えたり想像したりという役割を担っているところだそうです。記憶を司っているところとも関わりが深いそうです。また、他人の気持ちを理解するということも前頭前野のはたらきによるもので、このはたらきが低下すると人付き合いができなくなり、社会性が失われると考えられています。
 そこで、この部分を鍛えると、やる気、つまり意欲が旺盛になり、コミュニケーション能力も上がるのです。
 いろんな方法で脳を活性化させたり、公民館講座で自主的に学んだり、新しい友だちを作って、健康で心豊かに生活したいものです。

4 公民館講座で学んで得た知識や技能を地域・学校・施設でボランティアを
 今年はお手元の資料に記していますように、18講座で延べ680人の方が公民館講座で学ばれます。先ほど述べましたように、公民館講座では自分自身の体と心の健康、五木寛之さんの言葉で言えば、「日、1日と老いていく体と心を、できる限り安定した状態に保つ」ていきたいと思います。
 それと同時に、講座で学んで得た知識や技術を自分だけのものにしておくのはもったいないものです。是非、社会のために生かして欲しいと思います。
 益城町では、昨年から公民館講座の陶芸教室では、陶芸教室を卒業された方を指導者としてお願いしています。指導に当たっておられる方の話を聞きますとね、教室がある前に自分たちでひもづくりやいたづくりでものを作ってみて、ここが難しい、ここはこう作った方が良い、こんな補助具があった方が作りやすいなど事前に研究し、学びあって学級の指導に臨んでおられます。昨年、教室に参加した人からは、「難しいところをすぐに教えてもらえる」、「個人個人のレベルに合わせて教えてもらって自分なりの作品を作ることができ、楽しかった」などの声がありました。
 指導者は「教えることで新たな課題を学ぶ」、学習者は「自分のレベルにあった学習により学習意欲が更に湧く」というまさに生涯学習社会の公民館講座の在り方の範を示していただきました。
 公民館分館活動で指導をしていらっしゃる方もおいでです。お手元に示していますのは「きらめき25号」の抜粋です。福田分館では公民館講座で太極拳を学んだ方が太極拳の指導をしていらっしゃいます。飯野分館でも同好会を作って指導していらっしゃいます。
 また、粘土細工や陶芸で学んだ技術を生かして施設やグループホームでボランティア活動をしていらっしゃる方もおいでです。
 一部を読んでみます。
 「施設の皆さんから笑顔で迎えられることが最高の喜びです。いきいきとした表情が豊かで自らの作品に一喜一憂しておられる姿に接するにつけ、、ボランティア活動をして良かったと実感しています。無理せずできる範囲でが私のモットーです。人との出会いから仲間や友達づくりを大切にして、生涯学習を続けながら生活をエンジョイしたいと思っています」。
 また、この3月、そろばん教室の皆さんと町内の2校の小学校の3年生のそろばん学習のお手伝いをしたときのことを熊日新聞に投稿したものを記しています。


               学社連携したそろばん学習

 先日、公民館講座「そろばん教室」の講座生が小学3年生のそろばんの授業を手伝った。
 「そろばんはどんなときに使うでしょうか?」の先生の問に、「そろばんは昔の電卓」とか「お金を計る(計算の意味)とき使う」などと発表し、子どもたちはそろばん学習に興味を示していた。
 そろばんの名称や5珠、1珠の意味、数の表し方と読み方、簡単な足し算、引き算を先生が全体指導された後で、私たちはグループごとに指導助手を務めた。珠を人差し指だけで入れる子、親指だけで入れる子、先に暗算で答を出してから入れる子、5珠を使った足し算が理解できない子など、子どもたちはさまざま。一人ひとりに計算の仕方と指使いを手を取り教えた。計算が出来ると「ヤッター!」と喜びを表していた。
 授業終了後、講座生が掛け算、割り算、読み上げ算、読み上げ暗算の模範を示した。珠を素早く動かし計算する姿を見て、子どもたちは「うわー、すごい」の言葉を発し、そろばんで正確に、素早く計算できることに驚いていた。そして「ぼくもそろばんを勉強しよう」「おばあちゃんのそろばんを借りて練習しよう」と口々に言っていた。
 社会教育の場で学んだ成果を生かして学校教育を支援する「少子・高齢化時代の学社連携」を求めた試みは大成功だった。

 時間がありませんのでここで読むことはできません。後で読んでください。
 そのときの子どもからのお礼状が届きました。
 「そろばんを教えてくれてありがとうございました。そろばんはむずかしそうと思っていたけど、皆さんが分かりやすく教えてくれたので楽しかったです。家で練習します。」と。
 授業後、学級生が読み上げ算やかけ算、わり算のデモンストレーションをしました。珠をパチパチと動かし、正確に計算する姿を見て、子どもたちは「うわー、すごい」と驚いていました。A小学校では先生が黒板に筆算で計算されました。先生が答を出す前に講座生のそろばんには答えが出ています。B小学校では、先生が計算機を使って挑戦されました。かけ算やわり算は先生の計算機が速いのですが、読み上げ算では講座生が速くできます。そんな姿を見て子どもたちは、「ぼくもそろばんを勉強しよう」、「おばあちゃんのそろばんを借りて練習しよう」と口にしていました。 
 指導に当たった講座生の方は、「また来て教えてくださいの言葉がうれしかった」、「そろばんの良さを気づかせることが出来てよかった」などの感想を持たれました。
 A小学校では給食までごちそうになり、子どもたちとの交流もできました。
 このほか、公民館講座で学んだ知識や技能を生かす場は地域にもたくさんあると思います。
 講座生の皆様お一人お一人が講座の成果を生かして、社会貢献をしていただき生涯学習のまち「益城町」を創りあげていこうではありませんか。

5 おわりに
 島津日新斎(じっしんさい)忠良が5年がかりで完成させたと伝えられる「いろは歌四十七首」があります。これは、島津一族はもとより、後世幕末に至るまでその士風を怖れられた薩摩武士の根底に流れる規範とも言えるものだそうです。
 この中に
   いにしへの 道を聞きても 唱へても わが行ひに せずばかひなし    
 私は、このうたは生涯学習の神髄を表していると思っています。
 19年度も公民館講座で学び、体と心を安定した状態に保ち、その成果を生かして社会貢献しようではありませんか。


平成20年4月23日 開講式

               公民館講座で学んだ知識や技能を生かして子どもたちを支援しましょう

 桜の季節も終わり、新緑が萌える季節となりました。春風が心地よく感じられます今日この頃です。
 1年のうちで、最も暮らしよい季節です。
 江戸時代の儒学者 佐藤一斎の言葉「春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら粛む」実感する季節です。
 ところで、3月から4月にかけて茨城県、岡山県、福岡県、そして2日前は鹿児島県で若者が通りすがりの人を殺めるという誠に悲惨な事件が相次ぎました。それも「誰か人を殺したかった」「誰でも良かった」などと言っているそうです。人の命をなんと考えているのでしょうか。命に対する畏敬の念が消失しているように思えます。どんな育ちをしてきたのでしょうか。
 皆さんが子育てをしておられたときは、「うそをつかない」「人のものを盗まない」「無益な殺生をしない」の3つをいつも言って聞かせてこられたでしょう。この3つは今でも子育ての3原則だと思います。地域ぐるみで、してはいけないこと、しなければならないことを厳しく教え続けようではありませんか。命の尊厳をきっちりと受け止め、命への畏敬の念を育てる家庭教育、地域教育をつくりあげたいと強く思います。
 3月末に配付しました、益城町の生涯学習情報誌「きらめき」のおしどり夫婦で紹介しました○○さんは、「益城町に転居して10年、初めは隣近所の方もよく知らなかったが、公民館講座で学ぶようになって、知り合いが増え、新しい友だちができ、学びの楽しさを実感でき、充実した毎日を過ごしている。もっと、もっとたくさんの町民の皆さんが公民館講座を学んで欲しい」と話されました。
 公民館講座は、自分自身の学習欲求を満たすとともにこのように新しい仲間を作ることができます。その仲間の輪が地域づくりにつながります。公民館講座を通して、住民の連帯の輪を拡げましょう。そして、生涯学習のまち「益城町」を私たちの手で創りあげようではありませんか。
 昨日は、全国一斉学力テストが実施されました。子どもたちの学力の低下が社会問題となっています。とくに、学んだことを実生活に生かす応用力、つまり「生きた学力」が今求められています。学校では、総合的な学習の時間でありますとか社会科などの時間に地域学習を進めています。地域の人材の助けで学習の幅や質を拡げたり、地域教材を使って身近な生活の中で生きた学力を身につけています。
 文部科学省は、子どもたちの学力向上はもとより、先生方がもっと子どもと向き合う時間を確保したり、地域の皆さんが公民館講座など学習で得た知識や技能を生かす場を提供したりする「学校支援地域本部」事業を今年度から始めました。
 益城町でも、益城中央小学校でこの事業を進めることになりました。
 言い換えますと、この事業は「地域全体で学校教育を支援していきましょう」「地域教育力の活性化を図りましょう」「学習成果の活用の機会を拡げましょう」というものです。
 この事業の先取りの形で、公民館講座「そろばん教室」の人たちと小学3年生のそろばん学習のお手伝いを2年前から始めました。今年は、広安西小学校、飯野小学校、益城中央小学校でそろばん学習のお手伝いをしました。
 先生がそろばん学習の基本を指導され、各自が計算方法を練習する時間に私たちがお手伝いするのです。先生もたいへん喜ばれました。子どもたちも、日頃は休み時間になるとすぐに運動場へ跳んでいくところが、「おばちゃん、教えて」「おじちゃん、教えて」とそろばんの練習に取り組んでしました。
 そのことを熊日読者の広場に投稿したものです。読んでみます。

                    知識や技能で子どもを支援

 「今日はそろばん名人さんと一緒に学習します。」先生の巧みな指導でそろばん学習が始まった。公民館講座「そろばん教室」の受講生6人が授業を手伝った。
 先生の丁寧な指導で、子供たちは1珠や5珠の意味、数の読み方す直ぐに理解できた。1珠を入れるときは親指、1珠を取るときと5珠を入れたり取ったりするときは人差し指を使うことも理解できた。
 個別学習になり、私たちボランティアの出番がきた。子どもが珠を入れる様子を観察すると、親指で入れるか、人差し指で入れるかを一生懸命考えて入れる様子が手に取るように分かる。珠を入れたところで、「よくできたよ」と頭をなで褒めると笑顔が返ってくる。1時間の授業があっという間に終わる。授業が終われば、運動場に飛んでいく子どもたちが、「おじちゃん、教えて」とさらに難しい問題に挑戦する。
 授業後短時間ではあったが、子どもの学習について先生と情報を交換した。先生は、日頃見えない子どもの良さが見えて大変良かったと話された。本年度から地域で学校教育を支援する文科省の学校支援地域本部事業が始まる。公民館講座で学んだ知識や技能を生かし、子供たちの更なる成長を側面から支援していきたい。

 このお手伝いの後で、子どもたちからお礼の手紙をもらいました。その中から2人の手紙を紹介します。

                       そろばんの先生へ

 この前はそろばんを教えてくれてありがとうございました。さいしょは、(珠の)動かし方も知らなかったけど、先生たちの話を聞いて、1だまや5だま、位などのしくみがよくわかりました。先生たちはぼくたちがたった3日でくわしくわかるように教えてくれてすごいです。
 さいごのよみあげざんは、ひっさんのぼくたちもおいつけないくらいはやくてびっくりしました。
 これから先生に教えてもらったことをつかってそろばんをがんばります。


                    そろばんの先生へ

 そろばんを教えてくれてありがとうございます。
 さいしょはそろばんとかおもしろくないと思っていたけど、教えてもらううちにだんだん楽しくなってきてよかったです。
 家にそろばんがあるかられんしゅうしています。だから、これからもっといろんなことをおぼえていっぱいみにつけていきたいです。     

 学校支援には、今紹介しました小学校3年生算数のそろばん学習他、小学校図画工作や中学校美術での竹細工や木工、陶芸。書き方の時間の毛筆や硬筆の学習。幼稚園や保育園、小学校での絵本の読み聞かせ等いろんなものがあります。
 本町では、既に、陶芸教室の方が学校で陶芸のお手伝いをしたり、施設で粘土細工を教えたり、囲碁を教えたりしている方たちが大勢いらっしゃいます。
 さらにたくさんの方々に、公民館講座で学んだ知識や技能を生かして施設での療育や学校の教育のお手伝いをして欲しいと願っています。
 皆さんに学校支援ボランティア募集用紙を配付しています。どうぞふるって人材バンクにご登録ください。
 また、隣近所にこんなことを教えることができる名人さんがいらっしゃるという方をご存じでしたら、そのような方も推薦してください。
 益城町公民館講座がますます充実・発展しますとともに、町全体が生涯学習のまちとなりますことを念じています。



平成21年4月22日 開講式

            心豊かに生きる 学びのすすめ〜公民館講座で、私も家族も地域も伸びる〜

 楠若葉が新緑で萌えていま。天気も本日の開講式を祝っているようです。
 1年の中で今が一番過ごしやすい時期ですね。
 ちょうど今頃の季節をうたった和歌との説があります柿本人麻呂昨「ひむがしの野に炎の立つ見えてかへり見すれば月傾きぬ」は、皆さんよくご存じの和歌ですね。
 私は小学校で学んだように記憶しています。
 数年前、この和歌が小学校6年生の国語の教科書に載っていました。この和歌の学習をしたときの様子をある先生から聞いたことがあります。
 この和歌を学習した後で、和歌に詠まれている情景を絵に表そうということになったそうです。 子どもたちは先ず、東の情景を思い思いに描いたそうです。描き表された情景にあまり違いはなかったそうです。話し合いの結果、東の空の情景は「かぎろひの立つ見えて」から「山の端から今まさに太陽が昇ろうとするところ」でまとまったそうです。
 次に、西の情景を絵に表すと、傾く月の形にいろんな月があったというのです。三日月、上弦の月、下弦の月、満月などなど。東の空から太陽が今正に昇ろうとするときの月はどんな月かをみんなで議論してもなかなかまとまらなかったそうです。先生がヒントを出そうとしたそのとき、一人の子が「太陽と月の関係は4年生か5年生で勉強したごたる。明日理科の教科書ば持ってきてみんなで勉強してみよう。」と提案したそうです。そして、教科書を元に調べてみると、太陽が昇ろうとするとき、西の空に沈む月は満月だとみんなで理解し合ったという内容でした。私は生涯学習の視点からの国語の学習だと感じ入りました。国語の学習だ、理科の勉強だと決めてかかるのではなく、「これまでの生活や勉強で学んで得た知識や技能を総動員して問題を解決する」このような学習が今学校で行われています。私はこれが生涯学習時代の学校教育だと思っています。
 生涯学習というと社会教育のことと思われがちですが、学校では生涯学習の基礎を培っています。公民館講座では、皆さんが生涯にわたって学び、心豊かに生きる暮らしづくりを応援しています。
 もう、6年前になりますが「いきがい」教室で熊本機能病院長の話を聞きました。先生は、「人は40歳代から老化が始まる」と言われました。そしてその特徴として次の5つを挙げられました。その5つとは、「物覚えが悪くなる、物忘れが多くなる、怒りっぽくなる、動作が緩慢になる、社会性が狭まる」です。この5つは、すべて私には当てはまります。皆さんも当てはまりはしませんか?
 私は、このような老化の進行にブレーキをかけるのに適しているのが公民館講座だと思っています。
 今年もペン習字を始め、15講座を開設し、本日現在約500名の方が受講を申し込まれています。今年1年間、いきいきすこやかに学びましょう、遊び心を持って学びましょう、生活リズムを整えましょう、そして新しい友達をたくさんつくりましょう。3月の学習成果発表会での発表を楽しみにしています。
 と同時に、公民館講座で学んで得た知識や技能を地域づくりに生かしてほしいと思います。地域づくりに生かす方法はいろいろあると思います。
 人は一人では生きていくことができません。地域や隣近所で支え合いましょう。子どもから高齢者まで、ともに心豊かに生きる地域をつくりましょう。人のためにできる喜びを味わいましょう。
 具体的には、あいさつ運動があるでしょう。
 声かけ運動があるでしょう。
 皆さんが率先して公民館で学ぶことによって学びの風土づくりがあるでしょう。
 あるいは、子育て応援があるでしょう。
 レジュメに示しています新聞の切り抜きをごらんください。これは、私がある研修会で「子縁」という言葉を聞いたときのことを投書したものです。

                  子どもを地域で育みたい

 京都大学霊長類研究所の正高信男教授は、「ヒト以外の動物に老人は存在しない。老人とは、繁殖を停止したのに、なおかつ生きているヒト。生物にとって子孫を残すことは何よりも大事な役目。子孫を残す役目を終えると、その個体は無用の存在となる。なぜヒトは子孫を残す役目が終わってからも生きているか。それは、社会的には生きる知恵を伝え、家庭にあっては子育て支援に関わってきたから。」と述べられたことがある。
 少子・高齢時代の今こそ社会の第一線をリタイアした人の出番だ。今の若者は大学を卒業するまでに親と先生以外の大人との会話がとても少ないという。
 私は小さい頃、近所の大人から「そぎゃんこつすると、父ちゃんの泣かすぞ」「おっ、ええこつしよるね。じいさんの喜ばすぞ」と声をかけてもらっていた。また、時には「もうちょっとがんばれ」と背中を押してもらってもいた。
 ある研修会で「子縁」という言葉を聞いた。子どもや孫のつながりを通して、地域の宝である子どもたちを地域ぐるみではぐくみたいものだ。

 益城町では、昨年から放課後子ども教室を飯野小学校と津森小学校に開設しました。そこでは、「そろばん教室」の皆さんが子どもたちにそろばんでの計算方法を教えています。子どもたちからはもとより、両校の先生方、保護者からたいへん喜ばれています。
 また、教えている講座生の方からは「子どもが分かったとき、にこっとするあの笑顔がなんとも可愛い。こちらも嬉しくなる」などと話されます。これも「人のためにできる喜び」だと思います。
 終わりに2つの投書を紹介して終わりにします。


          「そろばん使い脳と心の若返り」

 年をとると誰でも物忘れが増える。物忘れは脳の前頭前野の衰えによるのだそうだ。しかし、脳を鍛えれば、衰え始めた脳も復活するといわれている。
 脳の活性化と地域での指導者養成を目指して公民館講座「そろばん教室」が昨年10月開講された。講座生のほとんどが60代で、練習に励んでいる。講座では、読み上げ算、読み上げ暗算、かけ算、わり算、見取り算を学習している。
 「何度も何度も練習して、かけ算のやり方が分かりました。」「寝る前に見取り算の練習をすると頭が適当に疲れてよく眠れますが、わり算は頭がさえて眠れなくなります。」「親指と人差し指の動きがスムーズになってきました。」など励まし合って楽しく学習に取り組んでいる。講座がない日も、時間を見つけて練習する学習意欲旺盛な人ばかりだ。
 「そろばんの技能がどれだけ身に付いたか試してみたい」と珠算検定を受験する人も多い。「わり算の第1問で躓き頭が真っ白になってしまいました。でも全部できました。」「心臓がどきどきのしっぱなしでした。」など、試験終了後の表情は満足感でいっぱいだ。結果は、7級から4級を全員が見事合格。合格を知らせたときの「うわぁー、うれしいー。」の喜びいっぱいの声と顔。そろばんは「脳と心の若さを保つ」のに最適だ。


           「学社連携したそろばん学習」

 先日、公民館講座「そろばん教室」の講座生が小学3年生のそろばんの授業を手伝った。
 「そろばんはどんなときに使うでしょうか?」の先生の問に、「そろばんは昔の電卓」とか「お金を計る(計算の意味)とき使う」などと発表し、子どもたちはそろばん学習に興味を示していた。
 そろばんの名称や5珠、1珠の意味、数の表し方と読み方、簡単な足し算、引き算を先生が全体指導された後で、私たちはグループごとに指導助手を務めた。珠を人差し指だけで入れる子、親指だけで入れる子、先に暗算で答を出してから入れる子、5珠を使った足し算が理解できない子など、子どもたちはさまざま。一人ひとりに計算の仕方と指使いを手を取り教えた。計算が出来ると「ヤッター!」と喜びを表していた。
 授業終了後、講座生が掛け算、割り算、読み上げ算、読み上げ暗算の模範を示した。珠を素早く動かし計算する姿を見て、子どもたちは「うわー、すごい」の言葉を発し、そろばんで正確に、素早く計算できることに驚いていた。そして「ぼくもそろばんを勉強しよう」「おばあちゃんのそろばんを借りて練習しよう」と口々に言っていた。
 社会教育の場で学んだ成果を生かして学校教育を支援する「少子・高齢化時代の学社連携」を求めた試みは大成功だった。

 1年間、遊び心を持って楽しく学び続けましょう。そして、知識や技能を社会に生かしましょう。



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